抹茶が、これほど身近になった時代はありません。茶道の一服だけでなく、ラテやスイーツ、日々の気分転換の一杯として、日本でも海外でも楽しまれるようになりました。
その一方で、国内の茶園面積に占める有機JAS茶園の割合は、わずか4.6%。面積で見れば、およそ22分の1です。
なぜ、有機のお茶はこれほど少ないのでしょうか。それは、単に生産者が有機栽培を選んでこなかったからではありません。有機で茶を育て、品質を保ち、商品として届け続けること自体に、いくつもの難しさがあるからです。

この記事では、「有機だから何となく良さそう」というイメージだけで終わらせず、有機JASの意味、栽培の現実、海外で高まる需要、そして私自身が宇治田原の茶畑で経験したことを通して、いま有機抹茶を選ぶ意味をわかりやすくお伝えします。
有機JASは、「何も使わずに育てる」という意味ではありません
日本で「有機」「オーガニック」と表示するには、国が定めた有機JASの基準を満たし、登録認証機関による検査を受ける必要があります。
有機JASでは、化学的に合成された肥料や農薬の使用を避けることを基本とし、土の力を生かしながら、農業による環境への負荷をできるだけ減らす栽培管理が求められます。周囲の畑から使用禁止資材が飛来・流入しないための対策や、生産から保管、加工に至るまでの記録管理も必要です。
なお、有機JASは「農薬を一切使わない」という意味ではないことです。病害虫などに対応するため、基準で認められた資材を使用する場合があります。
つまり有機JASとは、曖昧なイメージや生産者の自己申告ではなく、定められた方法で生産・管理されていることを第三者が確認する仕組みです。認証マークは、おいしさの順位を示すものではありませんが、消費者が「どのように作られたものか」を確かめて選ぶための共通言語になります。

有機の茶づくりが難しい、4つの理由
農研機構は、茶の有機栽培における主な課題として、次の4つを挙げています。
①雑草対策
除草剤に頼らず、茶樹の間や畝の周囲に生える草を管理するには、多くの時間と労力がかかります。
②肥料の管理
有機質肥料は、気温や土の状態によって効き方が変わりやすく、施す量と時期の見極めが必要です。
③病害虫への対応
茶にはさまざまな病気や害虫のリスクがあり、被害が大きければ収量や品質に影響します。限られた手段の中で、日々の観察と早めの対応が求められます。
④有機栽培への転換
品種の選定、土づくり、周囲からの農薬飛散対策などを整え、茶園が有機として認められるまでには、原則として3年ほどかかります。
このほかにも、認証費用、有機質肥料、除草の人件費が必要です。収量や品質が安定するまでの期間を含め、生産者は長い時間をかけて茶園と向き合います。
さらに、抹茶の原料となる「碾茶(てんちゃ)」は、収穫前の茶園を一定期間覆い、日光を抑えて育てます。摘んだ茶葉は揉まずに乾燥させ、仕上げ加工を経て細かく挽くことで抹茶になります。有機栽培に加えて、抹茶らしい色、香り、旨みを引き出す技術も欠かせません。
だからこそ、有機抹茶は簡単には増やせないのです。
4泊5日、宇治田原の茶畑で知った「茶づくりの背景」
制度や数字を調べるだけでは、どうしても見えないものがあります。
2026年5月、私は京都・宇治田原町の有機茶農家である西山さんのお宅に4泊5日で泊まり込み、茶の収穫作業をお手伝いさせていただきました。
朝から夜まで、ひたすら茶畑へ向かう毎日。正直に言えば、想像していた以上にハードでした。傾斜地での作業は足元が安定せず、機械や収穫した茶葉を扱いながら進むため、常に危険と隣り合わせです。
西山さん自身も、2年前に作業中に転落し、骨折した経験があると話してくださいました。急な夕立で、作業を中断せざるを得ない日もありました。一方、晴れれば強い日差しの中で汗を流し続けます。作業を終える頃には、日焼けした肌が痛むほどでした。

もちろん、わずか4泊5日で、農家さんの仕事を分かったとは言えません。それでも、身体を動かし、天候に振り回され、足元の危険を感じながら一日を終えることで、完成した商品からは見えにくい現場の重みを、ほんの少しだけ実感できました。
また、生葉を荒茶へ加工する工場も見学させていただきました。訪れた夕方の工場内は42℃。日中は50℃にも達するそうです。蒸機や乾燥機など、これまでテキストや動画でしか見たことのなかった設備が動く光景を、熱気と音の中で初めて目にしました。
茶畑で摘み取られた生葉は、そのままでは私たちが知る「お茶」にはなりません。鮮度が落ちる前に運び、蒸し、乾燥させ、荒茶へ加工する工程まで、多くの判断と人の手が連続しています。

この体験を通して知ったのは、「有機だけが大変」ということではありません。茶づくりそのものが、自然と向き合い、身体を使い、危険も引き受けながら続けられている仕事だということです。そのうえで有機栽培には、使える資材の制約、雑草や病害虫への対応、記録と認証の維持という、さらに別の負担が加わります。
普段、私たちは完成したお茶や抹茶を手に取ります。しかし、その一杯の背景には、作り手の判断、人の手、そして積み重ねてきた時間があります。
Sunny Apricotとして抹茶や日本茶を扱う以上、ただ「おいしいですよ」と伝えるだけではなく、その背景まで、自分の言葉で届けられる人でありたい。茶畑で過ごした5日間は、その責任を改めて自覚する時間になりました。

(2025年11月 有機茶農家の西村さんと)
有機を選ぶことは、有機以外を否定することではありません
私たちが有機抹茶を届けるのは、「有機でなければよくない」と考えているからではありません。農業は、作物の性質、土地や気候、農園の規模、目指す味や品質によって、適した育て方が異なります。
有機栽培には、土づくりや生物多様性に配慮し、環境への負荷を抑えて次世代へつなぐという明確な価値があります。一方で、使用できる農薬や肥料が限られるため、病害虫や雑草への対応に多くの手間を要し、収量や品質を安定させることが難しい作物もあります。
たとえば、いちごは栽培期間が長く、発生する病害虫の種類も多いため、有機栽培が難しい作物の一つです。りんごをはじめとする果樹も、一度植えれば同じ場所で長年育て続けるため、病気や害虫の影響を継続的に受けます。必要な防除を適切に行い、品質のよい果実を安定して届けることも、生産者の大切な責任です。
農薬を使うことが、ただちに自然や安全性を軽視することを意味するわけではありません。慣行栽培でも、定められた基準を守りながら使用量を減らしたり、天敵や防虫資材を組み合わせたりと、多くの農家が工夫を重ねています。
有機JASは、栽培・生産方法を示す公的な基準です。しかし、それだけで味や品質、作り手の誠実さまで順位づけするものではありません。大切なのは、認証の有無だけで農産物や農家を上下に分けず、どこで、誰が、どのように育てたのかを知り、その価値を選ぶことだと私たちは考えます。
Sunny Apricotは、有機抹茶の希少性と存在意義を丁寧に伝える一方で、素材を有機かどうかだけで判断することなく、産地、味、品質、そして作り手の方の想いを確かめて仕入れています。
有機を選ぶことは、ほかの農業を否定することではありません。それぞれの作物に適した方法と、生産者の努力を尊重しながら、未来に残したい選択肢を一つずつ支えていくこと。それが、私たちの考える誠実な向き合い方です。
有機抹茶を選ぶ3つのメリット
有機抹茶を選ぶメリットを一言で表すなら、味だけでなく、作られ方にも納得して商品を選べることです。
①栽培方法を、第三者の基準で確かめられる
「自然にやさしい」「丁寧に育てた」という言葉だけでは、具体的にどのような方法で作られたのかはわかりません。
有機JASには、使用できる肥料や農薬、周囲からの飛来・流入対策、生産記録、保管や加工の管理まで基準があります。認証マークがあることで、生産者の自己申告だけに頼らず、一定の基準に沿った作り方であることを確かめられます。
情報が多すぎる時代だからこそ、作られ方を一から調べなくても、共通の基準を手がかりに選べることは、一般の消費者にとって実用的なメリットです。
②選ぶこと自体で、環境に配慮した茶づくりを支えられる
有機栽培は、化学的に合成された肥料や農薬の使用を避けることを基本とし、土の力や茶園の生態系を生かしながら栽培を続けます。一方で、雑草対策、病害虫への対応、有機質肥料の管理には手間がかかり、収量や品質を安定させることも簡単ではありません。
一度の購入だけで、農業のすべてが変わるわけではありません。それでも、有機抹茶を選ぶ人が増えれば、生産者へ「この方法で作られた抹茶を求めている」という需要を返すことができます。
つまり、有機抹茶を選ぶことは、いまの自分が楽しむための行動であると同時に、これからも残ってほしい茶づくりへ一票を投じる行動でもあるのです。
③茶葉そのものをいただく抹茶だから、作られ方まで選べる
煎茶が茶葉から抽出した液を楽しむのに対し、抹茶は碾茶を細かく挽いた粉末そのものを湯やミルクに混ぜていただくものです。
日常的に口にするものだからこそ、どのように栽培されたものなのかまで知った上で選びたい。そう考える方にとって、有機JASは納得して選ぶための明確な手がかりになります。
何を避けたいかではなく、どのような茶づくりを応援したいか。毎日口にするものだから、作られ方まで知って選びたい。その前向きな価値観に応えてくれることが、有機抹茶の本質的なメリットです。

「有機であること」と「おいしいこと」の、両方を
有機JASは、生産方法を示す認証です。味の良さを自動的に保証するものではありません。
色、香り、旨み、苦み、使いやすさ。最後に「また飲みたい」と思えるおいしさがあってこそ、有機を選ぶ行動は一度きりではなく、日常になります。そのためSunny Apricotは、「有機であること」だけをゴールにしていません。有機JASという生産方法の確かさと、京都の老舗製茶会社が仕立てる味わいの両方を大切にしています。
難しい作法を覚える必要はありません。ラテでも、水に混ぜた一杯でも、製菓用でも。おいしく、無理なく続けられること。それが、自分の時間を豊かにしながら、有機の茶づくりを未来へつなぐ最も確かな方法だと考えています。
あなたの楽しみ方に合う、一缶を
①有機国産抹茶 Premium Grade
「ごこう」「さみどり」などを丁寧にブレンド。まろやかな甘み、澄んだ旨み、上品な余韻を味わえる最上位グレードです。
②有機国産抹茶 Select Grade
「おくみどり」ならではのまろやかな旨みと、穏やかな苦みを楽しめるバランス型です。
③有機国産抹茶 Barista Grade
ミルクや甘みと合わせても抹茶らしさを感じられる、香り、色味、ほどよい苦みのエントリーグレードです。
出典・参考資料
● 農研機構 果樹茶業研究部門 吉田克志氏「茶の有機栽培における主要な4つの課題とその対策の現状」(2025年3月)
● 農林水産省「茶をめぐる情勢」(2026年7月)
● 農林水産省「有機農業・有機農産物とは」
● 農研機構「国産有機イチゴの実現を目指して」(2025年12月)
統計・表現に関する注記
● 4.6%は、2023年の国内茶園面積に占める有機JAS茶園の割合です。
● 米国向け62.8%、EU・英国向け63.6%は、2025年の日本茶全体の輸出量に対し、有機認証制度の同等性等を利用して輸出された有機栽培茶の数量が占める割合です。いずれも「有機抹茶のみ」の割合ではありません。
● 有機JASは、生産方法を示す制度です。無農薬、残留ゼロ、栄養価や健康効果の優位性、おいしさを一律に保証するものではありません。